母と娘、母と息子の関係が書かれた物語を紹介します。
中学入試で出題された作品を中心に紹介していますので、小学校高学年、中学生におすすめの本です。
『水を縫う』
【著者】寺地はるな
【出版社】集英社
『水を縫う』はこんな本
2021年千葉県の中学入試が終わったときから、一気に大注目された物語です。
主人公の松岡清澄くんは、祖母(母方)、母、姉と暮らしている高校1年生。
両親は離婚しているが、父とは、なにかあれば会って話すくらいの仲を築いている。
彼の好きなこだけどそれに対する母や友達の態度に対して、どこか不可解なモノを感じている。
また、彼の家族もそれぞれ、自分の生き方や考えに自信をもてない”もやっ”とした気持ちをいだきながら毎日を生きている。
章ごとに主人公が清澄君、姉、母、祖母、父と変わるので、それぞれの気持ちがわかるようになった連作短編集。それぞれが悩みを抱える家族の物語です。
性別も年齢も関係ない好きなことは好き、イヤなものはイヤって言える自分が誇りに思えるようになれる物語りでした。
絡み合った糸が、さらっとほぐれた感じが味わえます。
●第9回河合隼雄物語賞受賞作品
●2021年読書感想文コンクール課題図書(高校生の部)
『水を縫う』中学入試メモ
2021年、千葉県の市川中学、東邦大東邦中学、神奈川県の聖光学院(帰国入試)の中学入試、東京の海城中学入試、三輪田学園中学校入試でも出題されました。
①2021年三輪田学園中学校の出題箇所はココ!
●出題された部分:姉の結婚式の前日のシーン 清澄が小学校4年生の時に「自分の名前の由来」を調べたことを思い出す
②2021年海城中学入試の出題箇所はココ!
●出題された部分は:第1章「みなも」より
友達をつくろうと思っている清澄くんの、クラスの友達と会話が上手できないシーンから、自分らしい生き方を貫いているくるみちゃんとの会話、クラスの男子に「刺繡が好き」ということを伝えるシーンまで
『雲を紡ぐ』
【著者】伊吹有喜
【出版社】文芸春秋社
『雲を紡ぐ』はこんな本
血を分けた親子なのになぜか分かり合えない母と娘。
母親を愛するあまり、父親の愛情を素直に認められない息子と不器用な父。
親子だって相性があるのかもしれない。
いじめが原因で学校に行けなくなった高校生の美緒は、母と口論になり、岩手県盛岡市の祖父(ほとんど会ったことのない!)の元へ家出をしてしまう。
そこで美緒は、ホームスパン(羊毛を手仕事で染め、紡ぎ、織る)の職人である祖父と一緒に暮らし、ホームスパンを教わることになります。
新しい祖父との生活は美緒を大きく成長させてくれるのです。
「時を越える布・ホームスパン」をめぐる親子三代の「心の糸」の感動物語。
涙がとまりませんでした。
両親には理解してもらえないことも、祖父にはわかってもらえる美緒が感じる安心感や、学校に行けなくなるほど自分に自信のない美緒の気持ちは、思春期の女の子ならわかりやすいと思います。
● 第163回直木賞 候補作
『雲を紡ぐ』中学入試メモ
2021年横浜雙葉中学校、本郷高校で出題されました。
①2021年横浜雙葉中学校の入試で出題
●出題された部分はココ!
学校に行けなくなっている孫の美緒が祖父と語るシーン
②2021年本郷中学校の入試で出題
●出題された部分はココ!
美緒が家出をしてきた直後
祖父から父が迎えに来ると言われるシーンから 祖父からここにいていいと告げられるシーン
『そのぬくもりはきえない』
【著者】岩瀬 成子 (著)
【出版社】偕成社
『そのぬくもりはきえない』はこんな本
主人公は小学4年生の波ちゃん。
波ちゃんの悩みは、お母さんが「波ちゃんのため」といって、いろんなことを波ちゃんに押し付けてくることです。
ソフトボール、絵の教室も、好きなのかどうかわからないけれど、お母さんに言われると「イヤ」って言えない。
私立中学に行った優秀なお兄ちゃんと比べられるし、波ちゃんは悩ましい毎日を送っているのです。
お母さんに反抗できないし、お母さんの言うことが正しい気もする。
自分はどう思っているかもはっきりしないし、自分の考えも言えない。
波ちゃんに共感する子どもはたくさんいるはずですし、大人が読むと、波ちゃんの母親と自分が似ているから「は!」っとする人も多い気がします。
親子で一緒に読み合いたい本です。
『そのぬくもりはきえない』中学入試メモ
2021年、日本女子大附属中学入試で出題されました。
出題箇所はココ!
波ちゃんにお母さんが一人部屋をつくってくれたシーン
波ちゃんがソフトボールの大会で母親に練習を休んだことがばれてしまったシーン
波ちゃんがハルを飼いたいと母親に頼むシーン
など8つのパート
どれも波ちゃんと母親との関係性が書かれています。
『母さんは料理が下手すぎる』
【著者】白石睦月
【出版社】ポプラ社
『母さんは料理が下手すぎる』はこんな本
連作短編集です。
小学生・中学生におすすめ短編は「プレゼント」
主人公は料理が得意な男の子山田龍一朗、小学5年生です。
龍一朗くんの母はキャリアーウーマンだけど恐ろしく料理が下手なため、料理担当だった父親が亡くなった後、長男の龍一朗くんが父親代わりに家族の料理担当になります。
料理上手なことを「女子ぽい、オカンぽい」とクラスの男子たちにからかわれて以来、料理が得意なことは秘密にしていた龍一朗くん。
そんな龍一郎くんのクラスに料理上手の転校生、渡辺辰美くんがやってきます。辰美君の考え方を聞いて龍一郎くんの意識が変化します。
ありのままの自分に誇りをもつ、辰美くんの気高さには感動しました。
料理が好きな男二人の友情も読みどころです。
『母さんは料理が下手すぎる』中学入試メモ
2021年成城学園中学校(第1回)の入試で出題されました。
出題箇所はココ!
出題された短編:「プレゼント」
『むこう岸』
【著者】安田夏菜
【出版社】講談社
『むこう岸』はこんな本
有名進学校で落ちこぼれ公立中学に転校した、裕福な家庭で育った少年、和真。
かたや父を事故で亡くし、母と妹と三人、生活保護を受けて暮らす少女、樹希。
まったく違う環境で育った二人は、お互いを疎ましく思っていたのですが、お互いことを知るにつれて、自分だけが現状の環境に苦しんでいるわけではないと、相手を思い合えるようになります。
そして二人は「貧しさゆえに機会を奪われる」ことの不条理に立ちっていきます。
貧しさは、将来をあきらめる理由になんてならないのです。
子どもが選べない家族の貧困、親に言えない本心、両親のプレッシャーに悩む和真と、母親の病気で生活が苦しく生活保護という呪縛にとらわれ続けて育った樹希、二人が背負ってきた悩みについて比較して読むとさらにおもしろいです。
● 第59回日本児童文学者協会賞受賞
● 貧困ジャーナリズム大賞2019特別賞受賞作品
● 2019年、国際推薦児童図書目録「ホワイト・レイブンズ」に選定
『むこう岸』中学入試メモ
2021年、広尾学園中学校入試で出題された物語です。
出題された箇所はココ!
和真が、カフェ「居場所」で樹希の友達アベル君に勉強を教えるシーン
和真が有名進学校時代にクラスメイトだった桜田君に合うシーン
和真が樹希の友達エマに樹希の家庭状況について聞くシーン
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
【著者】ブレディみかこ
【出版社】新潮社
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』はこんな本
イギリス南端にあるブライトン(ロンドンからは車で2時間程度離れた場所)にある公営住宅地に住んでいるブレディ一家の母みかこさんが書いたエッセイです。
ブレディー一家は、父、英国人(アイルランドの移民二世)のダンプ運転手、母のみかこさんは日本人、40歳すぎて息子を生んだ、その息子は東洋人顔で、真面目な性格の少年の3人暮らしです。
息子さん13歳、中学に入学するところからエッセイは始まります。
日本からすると、イギリスは多様な人種が暮らすのが当たり前になっている印象がありますが、それでも日本人である母みかこさんも、日本人の母をもち東洋人顔の息子さんも、イギリスでの生活は自分がマイノリティであると常に感じています。
息子さんは、それに加えて思春期ならではの友達との関係や、勉強のこと、親子関係についても悩みます。
そんな息子さんに母親のみかこさんは、自分の体験を語り、社会の不条理を教え、そして息子さんと一緒に社会の問題につい考えるのです。
思春期の悩み、疑問に思ったこと、社会のひずみを自分できちんと受け止めて考えていく、みかこさんの息子かっこよすぎます。
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』中学入試メモ
2021年芝浦工業大学附属中学校入試で出題されました。
出題箇所はココ!
人種差別だけではない差別について、母と息子が語るシーン
『ギフト、ぼくの場合』
【著者】今井 恭子
【出版社】小学館
『ギフト、ぼくの場合』はこんな本
両親が離婚し経済的にも苦しいなか、母と妹と3人で住んでいる小学生の外山くん。
仕事が忙しいお母さんに変わって妹の面倒をみている。(衝撃的な事件が起きる!)
お父さんの影響でギターが上手だった外山くんは学校活動のバンドで、代役としてギターを弾くことになります。
いろんなことが上手くいかない人生のなかで、ギターは父親との思い出だけでなく、外山くんの生きる証しなのでした。
こんなにも不幸が続くのかと思うくらいの外山くんの生活でしたが、最期には希望が待っています。
不幸すぎて無理!と思わず、最後まで読みきってくださいね。
『ギフト、ぼくの場合』中学入試メモ
2021年、慶應義塾湘南藤沢中等部の入試で出題されました。
出題箇所はココ!
両親が離婚する前の父親の思い出、ギターを教わるシーンなど
学校のバンドでケガをした水谷君のかわりにギターを弾くことになる。それを見た水谷君が怒りをぶつけてくるシーンまで
『金の角持つ子どもたち』
【著者】藤岡陽子
【出版社】朝日学生新聞社
『金の角持つ子どもたち』はこんな本
3つの連作短編集です。
①「もう一度、ヨーイドン」
熱中してきたサッカーを辞めて、日本最難関の中学を受験をしたいと言い出した小6の俊介に対して、一時の気の迷いだろうと反対する父親と、息子を応援したいという母親。
実は母親には辛い過去があったのです。
俊介の頑張りに、母親にも家族にも変化が現れます。
②「自分史上最高の夏」
俊介が中学受験をして難関中学に進学したいのには理由があることが明らかになります。
受験生が陥りやすい、必至で頑張った夏を乗り切った後に襲ってくる受験への不安も書かれています。
③「金の角持つ子どもたち」
中学受験生俊介の塾の講師、加地36歳の物語加地と暮らす弟(33歳)は、過去に引きこもりだったため、今も上手に人生を歩めていません。
弟の存在を見ないものとし続けた自分を悔いている塾の講師加地が、真摯に塾に通う子どもたち(弟にも)に向き合う姿が書かれた物語です。
3つの短編は、母も子どもも、塾の講師も、未来を切り開くため今を一生懸命生きている姿が印象的に残る物語でした。
『金の角を持つ子どもたち』は、子どもをもつ親、中学受験を考えている親子はもちろん、大人も子どもも読んでほしい一冊です。
特に感じたのは、本に出てくる受験に立ち向かう子どもたちは、小さな大人なんだなと思ったこと。
いつまでも親の考えているような、なにも考えていない子どもじゃない。彼らは大きく羽ばたいていく直前なんですね。
そんな子どもたちの姿に心打たれる物語でした。
『金の角持つ子どもたち』中学入試メモ
2022年、専修大学松戸中学、山脇中学校、サレジオ学院中学校の入試で出題されました。
山脇学園中学校の入試問題の出題箇所はココ!
②「自分史上最高の夏」から出題されました。
中学受験生俊介が塾の講師加地と喫茶店で話すシーン
『よろこびの歌』
【著者】宮下奈都
【出版社】実業之日本社
『よろこびの歌』はこんな本
7つの連作短編集になっています。
新設女子校の2Bのクラスメイトたちの青春物語。
主人公は高校生1年生の女の子御木元玲ちゃん。
有名なヴァイオリニストの娘で、声楽を志す御木元玲は、当たり前のように受かると思っていた音大附属高校の受験に失敗し、新設女子高の普通科に進学します。
親からのプレッシャー、周囲からのプレッシャーよりもなによりも自分が自分にかけるプレッシャーに押しつぶされそうになる玲ちゃんの姿に自分に似ているなと思う子どももいるはずです。
挫折感から学校でも孤独になってしまうのですが、校内合唱コンクールで指揮者になりクラスメイトと関わるにつれて、玲の高校生活は大きく動き出します。
玲と同じように自分の現状、見えない未来にもがき、それぞれ自分なりの道を歩みだす玲のクラスメイトたちと、玲の成長が読みどころです。
『よろこびの歌』中学入試メモ
2017年吉祥寺中学校、2019年公文国際中学校Bの国語入試問題として出題されました。
2019年愛知県の公立高校入試(Bグループ)でも出題されています。
2017年吉祥寺中学校入試問題の出題箇所はココ!
出題された部分は、挫折感から孤独を貫いている玲ちゃんが合唱コンクールの指揮者になるところから始まり、玲の圧倒的な音楽レベルにクラスメイトたちが引き気味になってしまう部分 そして高3への進級を前に合唱コンクールのリベンジをする部分
『イカル荘へようこそ』
『イカル荘へようこそ』はこんな本
【著者】にしがきようこ
【出版社】PHP研究所
【出版年】2021年5月
主人公は中学2年の真子ちゃんです。
喧嘩ばかり両親にうんざりし、家を飛び出した中学2年の真子ちゃんは、偶然出会った夏鈴さんの住む「イカル荘」でホームステイをさせてもらうことになります。
そこにはインドネシアからの留学生・デフィン(女子)がいて、3人の共同生活が始まります。
共同生活では料理や掃除などを当番制で行い、また他のふたりがどんなふうに家族と付き合っているのかを目にします。
三人での暮らしから、真子ちゃんは自分の辛さだけではなく、家族の気持ちを考えるようになるのです。
真子ちゃんの成長した姿は、彼女の両親よりも頼もしく思えます。
子どもの成長する姿の一方で、親だって完璧な人間じゃないし、家族をもつ・子育て初心者なんだよな~とも思ってしまう物語です。
『イカル荘へようこそ』中学入試メモ
2022年、田園調布学園中等部の入試で出題されました。
出題箇所はココ!
夏鈴さんから、真子のママが訪ねてきたことを教えてもらうシーンから、夏鈴さんの作品「祈る少女」について尋ねるシーン
『アドリブ』
【著者】佐藤まどか
【出版社】あすなろ書房
『アドリブ』はこんな本
舞台はイタリアの小さな町そこで母親と二人で暮らす少年ユージ(母もユージも日本人)10歳の夏、フルートと電撃的な出会いをし、音楽院に入り憧れの先生に教わるようになります。
生活は経済的にキツキツ、学校と音楽院とダブル生活もたいへんだが、ユージはフルートに関しては順調に上達していきます。
だが、ユージがフルートを憧れから始めて5年目ユージは、プロになれるのはひと握りという音楽界のきびしさをひしひしと感じ、お金の心配や将来への不安、音楽との向き合い方、なにもかもに悩んでいるのです。
15歳のユージはどうするべきなのだろうか?
友情 ライバルと自分、家庭の経済格差、将来の夢と現実問題、読みどころが満載の物語でした。
●第60回日本児童文学者協会賞
●第6回日本児童ペン賞少年小説賞受賞
『アドリブ』 中学入試メモ
2021年鷗友学園女子中、早稲田佐賀中の入試で出題されました。
2021年鷗友学園女子中の出題箇所はココ!
14歳のユージが、夏休みを利用して有名なフルート奏者から2日間の特別レッスンを受けるシーン
『窓』
【著者】小手鞠 るい
【出版社】小学館
『窓』はこんな本
両親の離婚後、父と祖母と暮らしている窓香ちゃんの元に、幼いころに離婚し、アメリカで暮らしていた母(亡くなった)のノートが届きます。
そのノートには、母が何を目指し、どのように生きていたのか、どれほど窓香を愛しているかがつづられていました。
ジャーナリストを目指した母の生き方を知ることで、「世界への窓」をもつようになる少女の成長が書かれた物語です。
島国の日本で暮らしていると、世界の人たちの暮らしをリアルに見たり、体感することが少ないのですが、世界には自分の想像のつかない社会が存在します。
その気づきはきっと子どもを大きく成長させ、新生活にうるおいを与えてくれるはずです。
『カーネーション』
【著者】いとうみく
【出版社】くもん出版
『カーネーション』はこんな本
中学1年の日和は、小さなころから母親の愛情を感じたことがない。というより、むしろ嫌われている、避けられているとしか思えないというビックリな物語です。
それは勘違いではなく、父親も気づいているし、母親自身も気づいていることだったのです。
わが子だから無償の愛を注げるわけではない現実の残酷さに気づく親子日和の家族はどうなってしまうのだろうか?
お母さんに愛してもらえないことを悩む日和と同じく、お母さんも子どもを愛せないことを悩んでいます。
行き詰まりの状態でも、お父さんがこの厳しい現実に向かい合ってくれて頼もしかったのが唯一の救いでした。
胸が痛くなる場面も多いですが、ぜひ読んでみてほしい本です。
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